【新任教員の紹介】金亨貞先生(韓国・朝鮮語)

<Q1> 「お名前」をお教え下さい。
金 亨貞(きむ ひょんじょん)といいます。

 

<Q2> 「ご専門(あるいは担当科目)」をお教え下さい。
専門は韓国語学と韓国語教育学です。最近興味を持っているテーマは韓国語名詞句における有情性の問題です。有情性というのは,日本語でいえば人や動物名詞には「いる」,もの名詞には「ある」が使われることと関連している概念です。有情性は,韓国語では格表示の実現,能動文と受動文における主語の選択などの文法現象と関係しているもので,これらの問題について研究を進めています。また,日本語母語話者のための日韓・韓日辞典の編纂にも関心を持っています。

 

<Q3> 好きな食べ物は何ですか。
おいしいものであればなんでもよく食べます。少し違う話になりますが,10年くらい前に日本人の知り合いの家に招待されたとき,きれいな薄緑のスープをいただいたことがあります。今考えればずんだスープでした。当時は日本に来たばかりの,まだ右も左もわからない素人だったので,その知り合いの方がいろいろお世話をしてくださいました。仙台に来てずんだ餅を見たとき,そのことを思い出して,とても懐かしいような寂しいような気分になりました。

 

<Q4> 好きな映画を紹介してください。
私が一番好きな映画は「ジプシーのとき」という昔のものです。ジプシーたちが生活する,旧ユーゴスラビアの小さな村を舞台にして,純粋なある少年が物質文明と資本主義に染まって堕落していく過程をリアルに描いた作品です。ジプシー音楽の悲しげなメロディーや魔術的なシーン演出を通して,現実の悲しみがより強烈に感じられました。行きつけのビデオレンタル店が閉店したとき,店主のおばさんからその映画のビデオテープをいただいて,今も持っています。

韓国の映画もいろんなものを見てきたのですが,最近話題になっている南北首脳会談と関連して「JSA」という映画を紹介したいです。いまさら紹介するまでもない有名な作品ですが。先日板門店での歴史的な出会いを見て,多くの韓国人があの映画のことを思い浮かべたかと思います。メッセージ性もあり,コメディーや推理などの娯楽映画としての面白さも備えていますので,ぜひ一度見てほしいです。

 

<Q5> 最近嬉しかったことは何ですか。
本学に赴任したことです。韓国語や朝鮮半島の文化および社会に関心を持っている学生たちと一緒に勉強できるようになってうれしく思っています。

 

<Q6> 感銘深く読んだ本と学生に推薦したい本をお教えください。
この頃は研究や教育関連の専門書籍ばかり読んでいて,あまり感銘を受けることもないですが,SF短編小説の「あなたの人生の物語」は面白かったです。アメリカの小説家,テッド・チャンが1998年に書いたものです。映画としても制作されて,日本では『メッセージ』というタイトルで昨年公開されました。ある日エイリアンが突然地球にやってきて,主人公の言語学者が軍の命令によりエイリアンとコミュニケーションをとりながら彼らの言語を習得していく過程を描いた小説です。

主人公は地球人の文字言語とは全く違うエイリアンの文字言語体系を身につけることによって,世界を4次元的に認識できるようになります。つまり,時間を自由に認識する力を身につけたことで,特定の時点に縛られずに,未来のことまで知ることができたのです。このような4次元の時空はアインシュタインの相対性理論で取り扱われたものです。少し難解な内容ですよね。認識方法が変わる過程の理論的妥当性について私は批判的ですが,言語学や認知科学,物理学の原理をもとにした,言語の習得が世界に対する人間の認知過程をも変えてしまうという大胆な発想は,なかなか興味深かったです。

ところで,その小説でもう一つ大切な話は主人公の娘との思い出です。思い出なのに未来時制で書かれていて,最初は不思議に思ったのですが,小説を読み終えて納得しました。おそらくその小説で作者が語りたかったのは,未来のことを先に知っても人間の選択は変わらないということだったのではないかと思います。

もう一冊,『「国語」という思想』という本も一度読んでみたらよいかと思います。社会言語学の本ですが,内容はそんなに難しくはありません。「国語」という言葉の歴史やそこに潜んでいるイデオロギーについて忌憚なく述べた本です。長い歴史を持っている日本の「国語学会」が2004年に「日本語学会」に名称を変更したこととも関連があるように思えます。

 

<Q7> 研究者(あるいは教員)を志したのは いつですか。
学部時代は韓国の大学の国語国文学科に所属し,韓国語学と韓国文学を勉強していましたが,当時は研究者や教員を目指すという考えはありませんでした。大学卒業後,たまたま韓国を訪れた外国人に韓国語を教える仕事をすることになりました。仕事は楽しかったですが,言語教育のより専門的な訓練が必要だと痛感して,韓国語教育学の修士課程に進学しました。韓国語教育学という学問は,韓国語学,教育学,心理学など,多様な分野にまたがる学際的な性格を帯びています。修士課程に在学中,自分は語学にもっとも興味を持っていることがわかりました。それで博士課程は再び韓国語学の方に戻ることになりました。数多くの用例の分析に奮闘しながら,何か意味のある研究結果を出さなければならないという圧迫感で苦しかったのですが,何度も仮説を立て直してそれの検証が可能になったとき,やりがいや喜びを感じました。博士の学位を得て,何となく自分も研究者として生きていけるかなと思いました。

 

<Q8> 学院大(生)のよいところをお教え下さい。
着任してまだ一か月程度しか経っていませんので,この質問には答えにくいです。これから変わるかもしれませんが,第一印象はおとなしくて真面目そうに見えます。

 

<Q9> 学生時代に印象に残った先生について教えてください。
私は日本に来てから博士論文を書いたので,実は韓国の大学にいらした指導教員の指導をちゃんと受けることは物理的に難しかったです。そういうことで,日本で朝鮮語学や朝鮮史を専門になさっている先生方に大変お世話になりました。ときには後輩のようにときには弟子のように,いろいろな相談に快く乗ってくださった先生方に心から感謝しています。

 

<Q10> 異文化“誤解”のエピソードがあればお教え下さい。
私は京都で5年くらい暮らしたことがあります。京都に行く前に日本人や韓国人の知り合いから「京都人のいうことには裏の意味があるので素直に受け入れてはいけない」と何度も注意されました。ところが,実際に生活してみたら人間が住んでいるところってそんなに変わらないということがわかりました。いわゆる先入観の問題ですが,どこの人はああだこうだということよりは,個々人の個性などを理解し合ったうえで,相手のことを配慮しようとする真心が大切でないかと思います。もちろん文化圏によって注意すべき言動はあるでしょうし,あらかじめ知っておくことはよいと思います。例えば,アメリカでは,他人の子供がいくら可愛くても頭をなでたりしてはいけないですよね。しかし考えてみると,他人の子供の頭をなでることは,韓国でも昔は違和感なく認められた行動でしたが,現在では失礼だと考える人が増えてきたようです。文化や習慣も時代とともに変わるものですから。昔の常識が今は時代遅れになってしまったり,誤って伝わった異文化の常識が問題を引き起こしたりすることも少なくないと思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

↑仕事帰りに見つけたコンクリートの裂け目から咲いている野花

 

<Q11> 赴任以来,「なんでやねん」と思わずツッコんでしまった出来事はありますか。
学院大の特色といえば毎日礼拝が行われることでしょうか。ところが私もミッション系の大学出身ですので礼拝には慣れています。(自分は仏教徒ですが。)不思議に思ったことは特にありません。

 

<Q12> 五月病に悩む学生へ一言,「こうしてごらん」。
私も生活環境が大きく変わってバタバタしています。こういうときは,まず,自分の心の中を冷静に見つめて,自分がもっとも避けたいことや望むことが何かを探り出してそれを素直に認めるのが必要かと思います。そのうえで,焦らずに自分のペースでやっていけば何となく落ち着くのではないでしょうか。とはいえ,常に理性的な判断ができるわけでもないですし,個々人の悩み事にもいろいろな種類がありますので,本当につらかったら周囲の誰でもいいので助けを求めたり声をかけたりしてください。

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