2020年度スクーリング情報⑤【ことばとコミュニケーション】課題図書紹介

課題図書紹介【ことばとコミュニケーション】 担当:信太光郎先生

・鷲田清一『ひとはなぜ服を着るのか』(ちくま文庫)

・橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか』(ちくま新書)

橋本治『人はなぜ「美しい」がわかるのか』、鷲田清一『ひとはなぜ服を着るのか』

「美しい」とはどういうことでしょうか。たとえば味が美しいこと、つまり「美味しい」とは。それが、甘い、しょっぱい、辛いといった感覚刺激の一種ではないことは明らかです。しかしどんな感覚なのかと問われると、答えに窮してしまいます。味覚刺激をどう掛け合わせようと、「美味しい」はでてきません。(「旨い」とは違います。「旨い」の素はれっきとした化学物質です)。実際、「美味しい」というのは、あなたが口腔や鼻腔や食道の粘膜で感じるようなものでないのです。それはむしろ、あなたの身体の外側にひろがる感覚です。いうなら、美味しいと「誰か」に言いたい、美味しいと「誰か」に分かってもらいたい、美味しいから「誰か」にも食べさせてあげたい、そういった感覚が「美味しい」です。それは人と人の「あいだ」で感じられる感覚なのです。一般に「美しい」という感覚は、人間が人と人の「あいだ」を生きる存在であることに関わっているのです。

人間がこうして「あいだ」を生きる存在であるということは、人間が「服を着る」理由も説明してくれます。服というのは、体温調整機能をになった動物の毛皮のような、単なる生きるための実用品ではありません。人間にとって「服を着る」ことの本質的な意味は、身体表面というものを拡張することにあります。人間において身体とは、上皮細胞と粘膜によって囲まれた領域のことではなく、その表面のごく近くに引っ掛かった布地(第二の皮膚)を通じて、外側へと広がっていくものなのです。人間はその拡張された身体表面において、冷温感や触感という生理的皮膚感覚にとどまらず、「誰かのまなざし」も感ずるのです。こうした独特の身体感覚をもっていることもまた、「あいだ」を生きる人間存在を特徴づけています。

以上のことを念頭において、橋本氏、鷲田氏の本を読んでみてください。

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