スクーリング情報(6)           課題図書紹介【日本語学と日本語教育】

【日本語と日本語教育】課題図書紹介         担当:佐藤真紀先生

日本で生まれ育ち、子どものときから日本語を母語として育ってきた人にとって、「日本語」は当たり前のものですね。苦労して学んだ経験もありませんし、普段話すときに日本語の文法や表現を意識することもあまりないでしょう。
では、日本語が正しく使える日本人ならば、誰でも日本語を教えられるのでしょうか。答えは”No”です。日本語が使えることと、日本語を「外国語として」外国人に教えるということは、全く別ものなのです。

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 日本語を学ぶとき、どこがどう難しいのでしょうか。日本語にはどのような特徴があって、それをどう伝えればいいのでしょうか。普段あまり意識して言葉を使っていないので、改めて聞かれると答えられないことが多いです。例えば「『おいしそうだ』と『おいしいそうだ』はどう違いますか?」と聞かれたら、戸惑いませんか。この2つは意味が大きく違うので、比べること自体に違和感があります。でも形を見れば「い」があるかないかの違いしかありません。似ていると思うのも当然でしょう。
 今回取り上げる本は、どちらも荒川洋平さんという方が書いた本です。著者自身、日本語教員であり、その実体験をもとに、日本語とはどういうものか、日本語を教えるとはどういうことか、日本語教員を目指す人が知っておくべきこと等が書かれています。
 日本語そのものに関心がある人は『日本語という外国語』から、日本語教育の様子が知りたい人は『もしも・・・あなたが外国人に「日本語を教える」としたら』から、読んでみるといいでしょう。どちらも、日本語教員という仕事の難しさ、面白さ、楽しさを味わうことができます。
 日本語教員には、学習者の視点に立って日本語を見ることが重要になってきます。この本を読んで、その第一歩を踏み出してください。

スクーリング情報(5)                        課題図書紹介【日中韓の言語文化】

担当:松谷基和先生

①原田敬一『日清・日露戦争』(岩波書店、2007年)

 皆さんは「日清戦争」「日露戦争」と聞いてどのような戦争を連想するでしょうか?おそらく、中学校や高校の歴史関係の授業で、名前ぐらいは聞いたことのある人は多いでしょう。しかし、これらの戦争が二十一世紀の日本に生きる皆さんとどのような繋がりがあるのかという問いについて考えたことのある人は決して多くないと思います。

 この本を皆さんに読んでもらう際に考えて欲しいのが、まさにこの問いです。これらの二つの戦争は、当時から100年以上も過ぎた現代の日本にも大きな影響をあたえ続けています。とりわけ、日本と周辺諸国(中国、韓国、台湾、ロシアなど)との関係は、この戦争とその結果によって決定され、今日でも解決できない様々の国際間の問題の遠因となっています。

 「温故知新」という言葉にある通り、100年以上も前の戦争について知ることが、現代の日本という国と周辺諸国の関係を理解する上で、実は非常に大きな助けになります。薄い本の割には中身が濃く、予備知識がないと理解が難しい箇所も多々あります。皆さんは、少なくとも第三章、第四章、第六章、第七章と「おわりに」を読み、その中で初めて知って驚いたこと、また現代の日本と周辺諸国の関係を理解する上で参考になったことを中心に考えをまとめてきてください。

②中島岳志『中村屋のボース――インド独立運動と近代日本のアジア主義 (白水Uブックス) 』(白水社、2012年)

 この本は、日清・日露戦争を経て、日本が西洋列強と並んで世界の大国にとなりつつあった時代に、インドから日本に亡命してきたラース・ビハーリー・ボースという人物の人生を中心に、日本とアジアの関係史をドキュメンタリー風に描いています。

 この時代、インドは大英帝国による植民地支配下にあり、インド人であるボースは英国の支配に抵抗し、インド独立を目指して戦っていた闘士でした。このため、彼は英国政府から睨まれ、日本に亡命せざるを得ませんでした。

 当時の日本は大英帝国がインドを支配していたように、台湾や朝鮮を植民地として支配する「帝国」であり、隣国のアジア諸国ではなく、西洋列強と連携する姿勢が顕著でした。しかし、当時の日本の民間人の中には、アジア人同士が連携して西洋の植民地支配に対抗すべきと考え、英国支配に抵抗するインド人のボースを援助する人々もいました。こうした日本とアジアの関係を深め、連帯しようとした人々を一般的に「アジア主義者」と呼びます。

 今日でもアジア諸国との連携を深め、アジアに共同体を作るべきというような構想が語られることがあります。実はこうした発想は100年以上も前から存在しますし、実際にその構想の実現を目指して実際に行動したアジア主義者がいたのです。しかし、彼らの夢がなぜ失敗し、また今日に至るまでも実現しないのか、その根本要因はどこにあるのかについて、皆さんそれぞれが本書を読みながら考えてきて下さい。

スクーリング情報(4)【ことばとコミュニケーション】

【ことばとコミュニケーション】課題図書紹介     担当:小林 睦 先生

「ことばとコミュニケーション」に関する書籍として私がみなさんに推薦したのは、以下の2冊です。(1)平田オリザ『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書、799円)、(2)子安増生『心の理論 心を読む心の科学』(岩波科学ライブラリー、1512円)

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 (1)は「青年団」という劇団を主宰する劇作家・演出家の本です。著者の平田オリザ氏が書いた台本は、中学国語の教材にもなっているので、皆さんも接したことがあるかもしれません。この本には、その彼が、色々な小学校や中学校で演劇ワークショップを行なうなかで、気づいたことや考えたことが記してあります。具体的に言えば、本書には、コミュニケーション能力を過剰なまでに求める、現代社会の風潮に対する疑問が示されています。日本のコミュニケーション教育では「わかりあう」ことに重点がおかれているが、むしろ「わかりあえない」ところから出発するコミュニケーションが大事なのではないか。もし「心からわかりあえなければコミュニケーションではない」とするなら、そこでは、心からわかりあう可能性のない人を排除する論理が働くのではないか。しかし、実際には「心からわかりあえないんだよ、すぐには」、「心からわかりあえないんだよ、初めからは」と筆者は述べます。簡単に「わかりあう」ことを前提としない。その点で、本書は、コミュニケーション能力の必要性を説くばかりの多くの書物とは異なる視点から、私たちが考えるための示唆を与えてくれる書物です。

(2)は、他人の心を理解する仕組みについて、認知科学的な観点から書かれた著作です。議論の素材となるのは、自閉症児の研究が明らかにした様々な事柄です。自閉症は発達障害の一つであり、かつて主張されたように、子供本人の努力不足や母親の育て方などが原因で生じるものではありません。今日では、自閉症は脳の中枢神経の機能障害により生じると推定されていますが、詳しい原因はまだわかっていません。自閉症の特徴は、(a)他人の気持ちを理解することが苦手である、(b)ことばの発達が遅く、身振りや表情を使うのが得意でない、(c)同じ動作を反復して行なうことを好み、新しいことをやりたがない、といったものです。こうした特徴をまとめるならば、自閉症の人は、言語的あるいは非言語的なコミュニケーションに問題がある、と言うことができます。これらの研究から明らかになってきたことは、他人の気持ちを理解するためにはどのような心の働きが必要か、ということです。コミュニケーションが苦手であるのはなぜなのか。その仕組みを明らかにすることで、本書は、コミュニケーションの意味について、新たな側面から光をあてた書物だと言えるでしょう。

スクーリング情報(3)【ことばの習得と教育】

課題図書紹介【ことばの習得と教育】(担当:渡部友子先生)

1.『外国語学習に成功する人、しない人』白井恭弘著

「何年も勉強しているのに英語が使えるようにならない」という挫折感を多くの日本人が抱えています。しかし一方で、英語を使って国際的な舞台で活躍する人もいます。成功と挫折を分ける要因は何なのでしょうか。そして、どういう学び方をすれば、英語が身につくのでしょうか。この本は、これらの問いに答えてくれます。

「これさえやれば英語が話せる」というような宣伝を見聞きすることがありますが、実は科学的根拠に基づいたものは少ないのです。外国語習得の研究者である著者は、これまでの研究で分かったことを紹介しながら、学習のコツを具体的に提示しています。「なぜ」を理解し「どう」すればいいかが分かれば、学習はしやすくなると思います。この本は、大学入学後も継続して学ぶ英語と、新たに学ぶ第二外国語の学習を支える一冊です。

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2.『「達人」の英語学習法』竹内理著

「外国語は幼いうちに始めた方がよい」とよく言われます。実際、中学校で学び始めて最終的に高いレベルの英語力を手に入れる人が少ないことは、調査でわかっています。しかしこのことを逆に見ると、少数だが存在する、とも言えます。「達人」と呼ぶべきその少数派に、この本は注目します。彼らは一体、どのような学び方で英語をマスターしたのでしょうか。

第1~2章は、外国語習得に影響を与える様々な要因(年齢や性格など)について、研究で判明していることを紹介します。この部分は、白井氏の著書と一部内容が重なります。第3~5章は、達人たちが実際に行なった学び方の共通点を導き出し、効果的な学習方法を探り出します。そこからわかるのは、短期間で楽に英語が身につくような魔法はない、でも努力の仕方に秘訣はある、ということです。日本に生まれ、日本で普通の英語教育を受け、長期の留学経験もない人が、どうして英語の達人になれたのか、あなたも知りたくありませんか?

スクーリング情報(2)【考えること・表現すること】

課題図書紹介【考えること・表現すること】(担当:信太光郎先生)

人間は自分たちを他の生き物とは「違う」存在だと感じています。それは人間に独特の感じ方です(たとえばカエルのヘビに対する「違う」という感じ方とは別ものです)。一言でいえば、人間は自分たちを「ただの生き物でない」と感じているのです。人間のこうした感じ方は、たぶん他のどんな生き物もやらない(やれない)ことを現にやっていることからくるのでしょう。そういわれるとわたしたちはすぐに(いくぶん誇らしげに)人間の優れた知性や、それを駆使して作られる精巧な人工物を思い浮かべるかもしれません。しかしそれはすこし見当違いです。人間より素早く正確に考え、人間より精巧な構築物を作る生き物は珍しくありません。生き物としての人間(ヒト)は比較的に不器用です。人間がコンピューターを用いて本能以上の正確さで環境変化に適応し、さらには機械を作ってどんな動物よりも速く走り、高く飛べるようになったのは(つまり「スーパー・アニマル」になったのは)、生き物としてのそうした劣等感をバネにした努力の結果という側面があるのです。

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課題図書:野矢茂樹『はじめて考えるときのように』
     藤田令伊 『現代アート、超入門!』について

ここで発想を変えてみましょう。人間が「ただの生き物でない」ことは、まさにその生き物としての「無能力」によっているのではないでしょうか。それは単なる不器用や能力不足ではなくて、他の生き物にはない「別の能力」と結びついているように思われます。この別の能力をもつことに比べるなら、他の生き物に対する優越感などは小さなことにすぎません。人間以外の他の生き物にとってすべては「生きるため」ですが(その目的に沿う限りで彼らはそれぞれに非常に有能なのです)、人間の生来の無能力は、実はその能力が「生きるため」にもはや束縛されていないことを表しています。そしてそれは「一から考える」能力と「新しいものを作る」能力に直接につながっていきます。このことはまた、人間だけが「自由」な存在であるということを意味します。

課題とした二冊はそうした人間固有の能力を問題にしたものです。一般に前者を「哲学」と呼び、後者を「芸術」と呼びますが、大切なことは、それらは人間の「人間らしさ」の成立と密接に結びついた営みだということです。みなさんにはこの二冊を通じて、「人間らしさ」とは何であるかを少し踏み込んで考えていただけたらと思います。

2017年度 スクーリング情報(1)

言語文化学科に合格されたみなさん、おめでとうございます。

今は大学生活への期待も高まる時期かと思います。これからの4ヶ月は、大学生活にとって重要な準備期間となります。それは勉学についても、それ以外の活動についても同じです。どうぞ一日一日を充実したものにしてください。

言語文化学科では入学前の準備教育として、「スクーリング」と呼ばれるイベントを実施しています。お手元に既に資料が届いているかと思いますが、日程・場所は以下のようになっています。

日時:2017年2月13日(月)10:30-16:30
場所:泉キャンパス2号館224教室ほか

2号館はここです↓
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 このスクーリングに際しては、みなさんに
①英語の単語テスト
②セミナー(言語篇、レポート2つ)
③セミナー(文化篇、レポート2つ)
をしていただきます。②③のセミナーについては、本学科のホームページで順次アップする予定の「スクーリング情報(2)」以降をご参照ください。

①英語の単語テストは、『基本語500 No. 1』(言語文化学科英語スタッフ編)の所収単語を暗記することです。『基本語500』は
http://www.ipc.tohoku-gakuin.ac.jp/izavc/kihongoreibun/index.html
から勉強してください。

スクーリング当日に確認テストを実施します。『基本語500』第1集の内容は音声付でWEB上に公開しています。個々の例文の音声へのアクセスや、基本単語を覚えたかどうかのチェックがすぐに行えます。ページを開いたら「お気に入り」に登録して毎日勉強してださい。ブラウザはインターネットエクスプローラを使用してください。ほかのブラウザではきちんと表示されないことがあります。

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WEBが利用できる環境になく学習が困難だという人は、必ず言語文化学科スタッフ(金永昊(キムヨンホ) kimyh※mail.tohoku-gakuin.ac.jp )に連絡を取ってください。印刷された教材と音声が入ったCDを郵送いたします。

【単語の意味と例文について】

単語の意味を示す日本語訳は、覚えることを優先に最小限に抑えて書いてあります。日本語の表示から、それが名詞であるのか、動詞であるのか、形容詞であるのか、副詞であるのか、それともまた別の品詞なのかを意識するようにしてください。間違えやすいと思われる場合は品詞も表示しておきました。例文中でどの品詞が使われているのかを意識するようにしてください。英語は日本語と違い、一つの単語が複数の品詞で使用されることが多くあります。使われる意味も一つではありません。皆さんもこれから、それぞれの単語について「このような使い方もあるんだ」という経験をすることになると思います。それぞれの単語を自分のものにしていく土台作りとして利用下さい。

自分で勉強の仕方を工夫して効率のいい方法を見つけていくことが大事です。4月の入学まで時間を有効に使って、有意義に過ごしてください。

【確認テストについて】

2月のスクーリング時に行う「確認テスト」は以下の要領で実施します。

・問題はA、Bの2種類。
・A:例文を基本単語の箇所だけ空欄にして表示、単語の意味と例文の和訳も表示する。
・B:例文を基本単語の箇所だけ空欄にして表示、意味・和訳は表示せず、例文の音声を2回聞く。
・A、Bともに、基本単語の先頭の文字がヒントとして表示される。
・答えとして、空欄に入る基本単語のつづりを記入する。例文によって語形が変化している(時制、三単元のs、分詞、複数形等)ことに注意する。
・Aの問題を20問、Bの問題を20問、計40問出題する。
・点数が5割に満たない場合、4月におこなわれる追試の対象になる。
・テスト返却の後、成績優秀者を表彰する。