スクーリング情報(2)【考えること・表現すること】

課題図書紹介【考えること・表現すること】(担当:信太光郎先生)

人間は自分たちを他の生き物とは「違う」存在だと感じています。それは人間に独特の感じ方です(たとえばカエルのヘビに対する「違う」という感じ方とは別ものです)。一言でいえば、人間は自分たちを「ただの生き物でない」と感じているのです。人間のこうした感じ方は、たぶん他のどんな生き物もやらない(やれない)ことを現にやっていることからくるのでしょう。そういわれるとわたしたちはすぐに(いくぶん誇らしげに)人間の優れた知性や、それを駆使して作られる精巧な人工物を思い浮かべるかもしれません。しかしそれはすこし見当違いです。人間より素早く正確に考え、人間より精巧な構築物を作る生き物は珍しくありません。生き物としての人間(ヒト)は比較的に不器用です。人間がコンピューターを用いて本能以上の正確さで環境変化に適応し、さらには機械を作ってどんな動物よりも速く走り、高く飛べるようになったのは(つまり「スーパー・アニマル」になったのは)、生き物としてのそうした劣等感をバネにした努力の結果という側面があるのです。

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課題図書:野矢茂樹『はじめて考えるときのように』
     藤田令伊 『現代アート、超入門!』について

ここで発想を変えてみましょう。人間が「ただの生き物でない」ことは、まさにその生き物としての「無能力」によっているのではないでしょうか。それは単なる不器用や能力不足ではなくて、他の生き物にはない「別の能力」と結びついているように思われます。この別の能力をもつことに比べるなら、他の生き物に対する優越感などは小さなことにすぎません。人間以外の他の生き物にとってすべては「生きるため」ですが(その目的に沿う限りで彼らはそれぞれに非常に有能なのです)、人間の生来の無能力は、実はその能力が「生きるため」にもはや束縛されていないことを表しています。そしてそれは「一から考える」能力と「新しいものを作る」能力に直接につながっていきます。このことはまた、人間だけが「自由」な存在であるということを意味します。

課題とした二冊はそうした人間固有の能力を問題にしたものです。一般に前者を「哲学」と呼び、後者を「芸術」と呼びますが、大切なことは、それらは人間の「人間らしさ」の成立と密接に結びついた営みだということです。みなさんにはこの二冊を通じて、「人間らしさ」とは何であるかを少し踏み込んで考えていただけたらと思います。