スクーリング情報(5)                        課題図書紹介【日中韓の言語文化】

担当:松谷基和先生

①原田敬一『日清・日露戦争』(岩波書店、2007年)

 皆さんは「日清戦争」「日露戦争」と聞いてどのような戦争を連想するでしょうか?おそらく、中学校や高校の歴史関係の授業で、名前ぐらいは聞いたことのある人は多いでしょう。しかし、これらの戦争が二十一世紀の日本に生きる皆さんとどのような繋がりがあるのかという問いについて考えたことのある人は決して多くないと思います。

 この本を皆さんに読んでもらう際に考えて欲しいのが、まさにこの問いです。これらの二つの戦争は、当時から100年以上も過ぎた現代の日本にも大きな影響をあたえ続けています。とりわけ、日本と周辺諸国(中国、韓国、台湾、ロシアなど)との関係は、この戦争とその結果によって決定され、今日でも解決できない様々の国際間の問題の遠因となっています。

 「温故知新」という言葉にある通り、100年以上も前の戦争について知ることが、現代の日本という国と周辺諸国の関係を理解する上で、実は非常に大きな助けになります。薄い本の割には中身が濃く、予備知識がないと理解が難しい箇所も多々あります。皆さんは、少なくとも第三章、第四章、第六章、第七章と「おわりに」を読み、その中で初めて知って驚いたこと、また現代の日本と周辺諸国の関係を理解する上で参考になったことを中心に考えをまとめてきてください。

②中島岳志『中村屋のボース――インド独立運動と近代日本のアジア主義 (白水Uブックス) 』(白水社、2012年)

 この本は、日清・日露戦争を経て、日本が西洋列強と並んで世界の大国にとなりつつあった時代に、インドから日本に亡命してきたラース・ビハーリー・ボースという人物の人生を中心に、日本とアジアの関係史をドキュメンタリー風に描いています。

 この時代、インドは大英帝国による植民地支配下にあり、インド人であるボースは英国の支配に抵抗し、インド独立を目指して戦っていた闘士でした。このため、彼は英国政府から睨まれ、日本に亡命せざるを得ませんでした。

 当時の日本は大英帝国がインドを支配していたように、台湾や朝鮮を植民地として支配する「帝国」であり、隣国のアジア諸国ではなく、西洋列強と連携する姿勢が顕著でした。しかし、当時の日本の民間人の中には、アジア人同士が連携して西洋の植民地支配に対抗すべきと考え、英国支配に抵抗するインド人のボースを援助する人々もいました。こうした日本とアジアの関係を深め、連帯しようとした人々を一般的に「アジア主義者」と呼びます。

 今日でもアジア諸国との連携を深め、アジアに共同体を作るべきというような構想が語られることがあります。実はこうした発想は100年以上も前から存在しますし、実際にその構想の実現を目指して実際に行動したアジア主義者がいたのです。しかし、彼らの夢がなぜ失敗し、また今日に至るまでも実現しないのか、その根本要因はどこにあるのかについて、皆さんそれぞれが本書を読みながら考えてきて下さい。