スクーリング情報(10)【独仏の言語文化】

【 課題図書紹介】 ― 独仏の言語文化 ―       担当:宮本直規先生

 フランス文化の紹介は、文学、絵画、音楽,映画などの芸術を題材として無数の書物が書かれてきましたし、また食文化やファッション関係の解説書も数多く存在します。しかし、それ以外の関心を持って留学した人が、実際にフランスに住んでみて感じたギャップやカルチャーショックを正直に記した本は意外に少ないのではないでしょうか。

 本書は、フランスの社会経済史を専門とする若い研究者がフランスに長期滞在したときに感じた、日常生活の疑問を率直に語り、その答えを探る内容になっています。いわば、日本の一般市民の視点を保ちながらのフランス体験記であり、知ったかぶりや無条件のフランス礼賛とは無縁です。

 一読すれば、頑固なフランス人気質が、グローバル化の波の中でどのような軋轢を引き起こしているのか、よくわかりますし、日本の社会と比較することによって、フランスの現状だけではなく、日本社会の常識を考える視点も与えてくれます。

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 つづいて、ドイツの言語文化にまつわる課題図書です。

 第二外国語としてドイツ語を選択した1年生に、最初の授業で、なんでドイツ語を選んだの?と聞くと、「なんとなくドイツの言葉や文化に憧れて」というのが少なくありません。そうしたあなたのドイツに対する漠然とした憧れに、具体的な輪郭を与えてくれるのが、熊谷徹『びっくり先進国ドイツ』(新潮文庫)です。

 著者の熊谷さんはフリーのジャーナリストで、ドイツに住んで20数年。ひと言でいえば、長年の現地生活で培われたドイツ人観を、ポジもネガも取り混ぜて記した書物ということになります。節度を保った分かり易い文体と、経験に裏打ちされた具体的な記述内容ゆえに、皆さんでもとても楽しく、あっという間に読み終えてしまうでしょう。そこからは、実際には「先進」か「後進」かはよくわからない、しかしとりあえず私たち日本人には「びっくり」な現代のドイツ人の「生態」が浮かび上がってくることになります。

 しかし注意してほしいのは、こうした現代ドイツ人のどんな「生態」一つを取っても、それが過去の膨大な時間の積み重ねと因果の必然の上に成り立っているということ。たんに事象の上っ面を捉えるのみならず、その背後に隠れた過去の時間にも思いを馳せてみてください。

「憧れとは認識不足の産物である 」と言ったのは、トーマス・マンでした。

 有り体にいえば、あなたが誰かさんに憧れるのは、あなたが誰かさんのことをよく知らないからであって、あなたが誰かさんのことをよく知っていれば、そもそも憧れたりなんかしないのよ、という身もふたもない話です。

 スクーリング情報でご紹介した書物が、皆さんにとって幻滅の種ではなく、更なる興味関心の惹起に、ひいては対象へのより深い愛着に繋がっていくことを祈っております。