講演会のご案内

大坪幸永氏 「 共に学ぶ ー 小中学校の日本語指導員として ー 」

新年1月は大盤振る舞い、2週にわたって講演会をお届けします。

海外で⽣まれ育った、家族に⽇本語を話す⼈がいないなど、さまざまな理由で⽇本語がよくわからず、学校の勉強についていけない児童⽣徒が少なくありません。さて、われわれは彼ら彼女らにどう向き合えるのでしょうか。

本講演では、宮城県の公立小中学校で⽀援に携わっている先⽣に現場の様子をお話いただきます。参加費は不要、どなたでもご参加いただけますので、ぜひ、お越しください。

講演会が盛況のうちに終わりました

去る1月17日(木)は、映画ライター佐藤結氏を迎え、「外国語を生かすキャリア―韓流の最前線で働いて―」というテーマで講演会が行われました。

(左)塚本学科長の挨拶
(右)駐仙台大韓民国総領事館朴容民総領事の挨拶
はじての韓国、フリーライターになるまで、韓流ブームの到来、フリーライターとはどんな仕事か、「韓国」を仕事にしてよかったこと、仕事をする上で大切にしていること、大学時代にできることをテーマに興味津々な話をたくさんいただきました。
質疑応答の様子。質疑応答は懇親会の時にも続きました。
松谷先生の司会のなか、国際交流部長の挨拶の締めの言葉で終わりました。

講演会のご案内「外国語を生かすキャリア―韓流の最前線で働いて―」

2019年1月17日(木)には、「外国語を生かすキャリア―韓流の最前線で働いて―」というテーマで講演会が行われます。外国語を生かした仕事はどのようなものがあるのでしょうか。関心のある学生は奮ってご参加ください。

2019年度 スクーリング情報(10)【ことばとコミュニケーション】課題図書紹介

【ことばとコミュニケーション】課題図書紹介    担当:小林睦先生

「ことばとコミュニケーション」に関する書籍として私がみなさんに推薦したのは、以下の2冊です。(1)平田オリザ『わかりあえないことから コミュニケーション能力とは何か』(講談社現代新書、799円)、(2)子安増生『心の理論 心を読む心の科学』(岩波科学ライブラリー、1512円)

 (1)は「青年団」という劇団を主宰する劇作家・演出家の本です。著者の平田オリザ氏が書いた台本は、中学国語の教材にもなっているので、皆さんも接したことがあるかもしれません。この本には、その彼が、色々な小学校や中学校で演劇ワークショップを行なうなかで、気づいたことや考えたことが記してあります。具体的に言えば、本書には、コミュニケーション能力を過剰なまでに求める、現代社会の風潮に対する疑問が示されています。日本のコミュニケーション教育では「わかりあう」ことに重点がおかれているが、むしろ「わかりあえない」ところから出発するコミュニケーションが大事なのではないか。もし「心からわかりあえなければコミュニケーションではない」とするなら、そこでは、心からわかりあう可能性のない人を排除する論理が働くのではないか。しかし、実際には「心からわかりあえないんだよ、すぐには」、「心からわかりあえないんだよ、初めからは」と筆者は述べます。簡単に「わかりあう」ことを前提としない。その点で、本書は、コミュニケーション能力の必要性を説くばかりの多くの書物とは異なる視点から、私たちが考えるための示唆を与えてくれる書物です。  (2)は、他人の心を理解する仕組みについて、認知科学的な観点から書かれた著作です。議論の素材となるのは、自閉症児の研究が明らかにした様々な事柄です。自閉症は発達障害の一つであり、かつて主張されたように、子供本人の努力不足や母親の育て方などが原因で生じるものではありません。今日では、自閉症は脳の中枢神経の機能障害により生じると推定されていますが、詳しい原因はまだわかっていません。自閉症の特徴は、(a)他人の気持ちを理解することが苦手である、(b)ことばの発達が遅く、身振りや表情を使うのが得意でない、(c)同じ動作を反復して行なうことを好み、新しいことをやりたがない、といったものです。こうした特徴をまとめるならば、自閉症の人は、言語的あるいは非言語的なコミュニケーションに問題がある、と言うことができます。これらの研究から明らかになってきたことは、他人の気持ちを理解するためにはどのような心の働きが必要か、ということです。コミュニケーションが苦手であるのはなぜなのか。その仕組みを明らかにすることで、本書は、コミュニケーションの意味について、新たな側面から光をあてた書物だと言えるでしょう。

2019年度 スクーリング情報(9)【独仏の言語文化】課題図書紹介

【独仏の言語文化】課題図書紹介     担当:宮本直規 先生

 フランス文化を紹介する本は無数に書かれてきました。文学、絵画、音楽,映画などの芸術を紹介する本、街や建物などに関する本、食文化やファッション関係の解説書も数多く存在します。
しかし、それ以外の関心を持って留学した人が、実際にフランスに住んでみて感じたギャップやカルチャーショックを正直に記した本は意外に少ないのではないでしょうか。
 本書『フランス7つの謎』(小田中直樹著, 文春新書,2004)は、フランスの社会経済史を専門とする若い研究者がフランスに長期滞在したときに感じた、日常生活でのふとした疑問を素直に語り、その答えを探る内容になっています。いわば、日本の一般市民の視点を保ちながらのフランス体験記であり、知ったかぶりや無条件のフランス礼賛とは無縁です。
 一読すれば、頑固なフランス人気質が、グローバル化の波の中でどのような軋轢を引き起こしているのかよくわかりますし、日本の社会と比較することによって、フランスの現状だけではなく、日本社会の常識を見つめ直すヒントも得られるはずです。

つづいて、ドイツの言語文化にまつわる課題図書です。

一方、「ドイツの言語文化」の課題図書は、『知ってほしい国ドイツ』(新野、飯田、梅田編著、高文研、2017、1700円)という本です。ドイツの文化や歴史について、入門者にも分かりやすく解説した本は現在数多く出版されていますが、この本もそうしたものの一つです。
 ドイツのペット事情やビールへのこだわりといった「ドイツ文化あるある!」的な記述でスタートし、第2次世界大戦を境としたその前後のドイツ文化の点描が続き、ヒトラーとナチズムについての章を経て、難民問題、脱原発、EUとの関係といった極めて現代的なテーマによって締めくくられます。特に第2次世界大戦前夜からヒトラー、ナチス、東西ドイツ、ドイツの再統一という近現代史の流れは、言語文化を志す皆さんには是非とも読んでおいてもらいたい部分です。
 「知ってほしい」というタイトルが示すとおり、ドイツのことを「知りたい」と思っているみなさんには格好の入門書であることは確かなのですが、個々の部分では入門書の枠を超えた、突っ込んだ記述になっていることもまた事実です。しかし巻末には時代毎のドイツの地図や簡単な年表もついていますし、その気になればネットやスマホを駆使して未知の概念を調べながら読み進むことも可能なはずです。今のうちに、ぜひそうした読書のあり方にもチャレンジしてみて下さい。

2019年度 スクーリング情報(8)【英米の言語文化】課題図書紹介

【英米の言語文化】課題図書紹介       担当:井上正子先生

「英米の言語文化」のジャンルでは、イギリスとアメリカに関係する文化、文学、歴史、思想、政治、経済など様々なことを学ぶことができます。関連する科目として、「英米文学史(2年次)」、「英米の言語文化(2年次)」、「英米文学(3年次)」、「原典講読(3年次)」、「言語文化学演習(3年次)」、「総合研究(4年次)」が用意されています。ことばとしての英語の言語表現と機能を学び、それと同時にことばの背後にある意味をさまざまな視点から分析・研究することによって、英米の言語文化のもつ特質を学ぶことができます。

次に推薦図書について簡単に紹介します。

(1)池上彰著『そうだったのか!アメリカ』(集英社) は、よくあるアメリカの紹介本とは違い、池上氏が現代のアメリカが抱える問題を分かりやすく解説しています。9章で構成されていて、アメリカの「宗教」、「連合国家」、「帝国主義」、「銃」、「裁判」、「移民」、「差別」、「経済」、「メディア」について、豊富な資料をもとに多角的な視点から解説されています。読んだあとに読者が「そうだったのか!」と驚かされ、アメリカを十分に理解できる内容になっています。

もう一つの書物は、(2)『「イギリス社会」入門―日本人に伝えたい本当の英国』(NHK出版新書) です。著者はコリン・ジョイスという英国人ですが、大学卒業後に日本とアメリカに18年以上も滞在した経験を持っているため、自分の国の文化―例えば、お酒やパブ、コーヒー文化、歴史、イギリス英語とアメリカ英語の違いなどを、日本やアメリカの文化と比較しながら客観的に説明しています。ただ単に自国の文化の優れた点を強調している他の書物と違い、ユーモアを交えてイギリスの良いところも悪いところも均等に説明している入門書です。
(1)と(2)の書物は、本学の言語文化学科で他国の言語と文化を学ぶ方法のヒントを与えてくれる非常に役立つものです。

韓国慶北大学国語国文学科の訪問団と宮城県朝鮮ゆかりの地を訪問

12月22日(土)は金亨貞先生の引率の中、宮城県の韓国・朝鮮ゆかりの地を訪問しました。

事前説明会の様子(↑松谷先生による安重根と千葉十七についての説明)
吉野作造記念館(古川市)     ↑松谷先生による分かりやすい通訳
安重根記念碑(栗原市大林市)
「為国献身軍人本分」は安重根が処刑直前に看守の千葉十七に贈ったものです(左)。安重根の碑の前で説明を聞く様子(右)。
安重根の位牌の前で説明を聞く様子(左)。おいしいお茶とお菓子をいただきました(右)。
朝鮮語の方言及び新羅時代の郷歌と吏頭の解読に大きな業績を残した小倉進平(1882‐1944)の墓の前で。
1930年代の植民地朝鮮においてモダニズム文学理論を紹介した詩人金起林(1908-?)の詩碑の前で(東北大学片平キャンパス)

特別講演会「吉野作造と朝鮮」が盛況のうちに終了

去る12月20日は、永澤汪忝氏を迎え、特別講演会「吉野作造と朝鮮」が行われました。吉野作造は大崎市古川出身で、東京帝国大学の教授を務め、政治学者・思想家として大正デモクラシーの立役者として有名な人物です。

当時の日本人は、日本を支配するのは天皇であるということが一般的な考え方でした。しかし、吉野は、政治は国民の利益のために行われるべきで、国民の考えを反映しなければならないという「民本主義」を提唱しました。

たくさんの学生と教職員が参加しました。通訳は松谷先生が担当されました。

今回の講演会では、特に、朝鮮からの留学生金雨英(キム・ウヨン)との出会いによって、吉野の朝鮮についての認識が大きく変わったこと、その後、直接朝鮮を訪問して「満韓を視察して」を執筆したこと、「三・一独立運動」「関東大震災」と朝鮮人、たくさんの朝鮮人留学生の世話をしながら親交を深めたことなど、大変勉強になる話がたくさんありました。

2019年度 スクーリング情報(7)【中韓の言語文化】課題図書紹介

【中韓の言語文化】課題図書紹介       担当:楊世英先生

日本人の思考や考え方について答えてくれるのが、内田樹『日本辺境論』である。

ヒト・モノの移動は、地域・産業・社会に大きく影響する。人の移動、人口と国家、社会の移動などについて、事例を挙げて説明しつつ、日本人ないし日本社会をどう見るべきかについても理論的に解説している。本書は日本社会への再認識の手かがりとなるので、ぜひ読んでいただきたい。

一方、アジア社会における多様性について、消費と人口規模という視点から解釈したのが、川端基夫『消費大陸アジア:巨大市場を読み解く』である。

本書は、アジア経済・社会を深く、なおかつ総合的に理解するためのヒントを提供してくれる。アジアには、共通性も多様性も存在している。これまでは、アジアを考察する際、歴史的・現実性を主眼に置くものが多かったけれど、本書は多くの統計データと様々な側面に拠りながらアジア全体を眺めており、アジアへのよりよい理解を深めたい、断片的ではなく総合的理解が必要だという著者の思いが伝わってくる。アジア経済や社会について、このような縦横交錯的な議論が、いわば立体的に考えることが今、求められているのである。

アジア諸国に関する多くの議論を抽象し、ごく手短かに述べれば、アジアは過去50年間経済発展により着実に社会進歩を進めていたことは間違いない。しかし、真の豊かな社会あるいは近代化社会になるためには、これまで以上の改革が避けられない。世界経済にはより不確実な要素が充ちているからである。

2019年度 スクーリング情報(6)【日本の言語文化】課題図書紹介

日本の言語文化】課題図書紹介       担当:原貴子先生

柳父章『翻訳語成立事情』(岩波新書、1982年4月)

本書では主に、幕末から明治時代にかけて西欧の学問や思想などを受容する際に用いられた翻訳語がどのように生み出され定着していったか、に焦点を当てています。具体的には、「社会」「個人」「近代」「美」「恋愛」「存在」、そして、「自然」「権利」「自由」「彼、彼女」です。前者は、翻訳のために新たにつくられたことば、もしくは実質的に新造語とみなし得ることばであり、後者は、従来日常的に用いられてきたことばに翻訳のために新たに意味を付け加えたものです。

著者は、このような翻訳語の成立史を明らかにする際に、辞書に記された意味の変遷のみを追うのではありません。むしろ、辞書的な意味では捉えることのできない、人々との関わりのなかで生まれた「ことばの、価値づけられた意味」を重要視します。例えば、modernの翻訳語としての「近代」ということばの成立過程を追究する際には、「近代」に「混乱」「地獄」が見出されてきた一方で、「何か非常に偉い」ものが感じ取られてきたように、価値づけが両極端に分かれることに注目します。または、明治20年代半ばには、西洋のloveの翻訳語として「恋愛」ということばが流行しましたが、その頃、「恋愛」は従来の日本の「色」「恋」とは異なるものと捉えられ、「色」「恋」が蔑まれる一方で「恋愛」は高尚なものと受け止められました。著者はこうした、人々がその翻訳語をまだ十分に使いこなすことができずに、逆に翻訳語に人々が動かされている段階に着目して、その段階におけることばの意味、「広い意味での文脈上の働き」を中心的に取り上げていきます。

したがって、本書は、societyやlibertyなどをはじめとするそれまでの日本にはなかった新しい概念が西欧からもたらされた際に、当時の人々がいかに格闘して時に変容させながらも自らのものとしていったか、その過程を臨場感をもって味わわせてくれると言えるでしょう。本書を通じて、これまで何気なく使っていた日本語の歴史的背景の一端を知ることができます。

石原千秋『『こころ』で読みなおす漱石文学 大人になれなかった先生』(朝日文庫、2013年6月)

本書では、第1章~第3章にかけて『こころ』本文の精緻で時にスリリングな読解が展開されます。

第1章では、先生を「大人になれなかった」人物と捉え、先生は「Kを乗り超えることで「大人」になる儀式をすませようと思っていた」からこそ、Kの自殺に対して過度な罪悪感を抱くことに繋がったと著者は論じます。では、著者の言う「大人」とはどのような意味なのでしょうか。

第2章では、青年が、先生の遺書に「妻には何も知らせたくない」と書かれてあったにもかかわらず、その禁を破って先生の遺書を公表しようとすることに著者は注目します。それが可能であったのは、青年が先生の遺書の核心に気が付いたことによって、先生を乗り超えて「大人」になったからだと論じます。では、青年を「大人」へと成長させた先生の遺書の核心とは、何でしょうか。

第3章では、静は、先生とKとの過去について「みんな」知っていた可能性があると著者は主張します。青年が手記を書いている現在は、静に恋をして一緒に暮らす間柄になったからこそ、実は静が「みんな」知っていたことを把握しており、それゆえに「いま」は静を「批評的」に見ていると論じます。

第4章では、『こころ』を漱石文学全体のなかで捉えています。著者は、漱石文学の多くは「遺産相続をめぐる物語」が主軸であると指摘します。著者の言う「遺産相続」とは、「家督相続」「趣味の相続」「「真実」の相続」の三種類です。そして、『こころ』は、青年が先生から「真実」の相続を果たした物語であると言います。では、その「真実」とは一体、何なのでしょうか。

第5章では、朝日新聞社が期待した新たな新聞購読者層と夏目漱石が想定していた読者層の内実を明らかにしています。それが「ある程度の教育を受けた若い男性」であったからこそ、『こころ』を含む漱石文学では、女性という謎がよく扱われるのであると著者は結論づけます。

本書を通じて、小説を研究として読むことの奥深さや面白さを体験することができるでしょう。そして、小説のことばの意味を確定するには、その当時の文化的背景を調べる必要があることを実感できると思われます。