ポルタ(Porta)の紹介③-グローバルな視点から読み解く「原発事故」-

 2011年3月以来、原発事故とその被害の深刻さは世界の注目を浴びています。放射能汚染に伴う避難、家族離散、被災者に対する差別、賠償を巡るコミュニティーの分断、食物汚染と輸出入規制、再生エネルギーへの投資拡大、原発輸出と核不拡散問題などなど、原発事故を通じて様々な政治的、社会的、経済的課題が浮かび上がり、その影響は「福島」や「日本」といった枠を超えて、グローバルに及んでいます。この学びの場では、主に英語のテキストやメディア資料を用いて、この事故の実情や被害の広がりについて海外でどのように異なるのかを比較検討しつつ学びを深めています。さらに、将来的には長期休みを利用して、これらのテーマに関心を寄せる海外の研究者や大学生との交流や研究会、あるいは合同フィールドツアーなども企画していきたいと考えています。指導言語は主に英語ですので、英語を用いて知識や視野を広げたい方の参加を歓迎します。

● 担当先生:松谷基和先生
● 開催時期:毎週火曜日2限
● 場所:3号館6階「多言語多文化実習室」

【コラム5】食べ物が国境を越えるとき(渡部友子先生)

 昔アメリカに留学中、不思議な食べ物に遭遇しました。ブロッコリーの天ぷらです。日本料理店で注文した盛り合わせの中に入っていました。「日本でこれは揚げないよね」と大笑いしましたが、改めて「具材にできる・できないの基準は?」と聞かれたら答えに窮します。レンコンやカボチャも揚げるのですから、ブロッコリーも悪くないですよね。また数年前には、イギリスでJapanese vegetarian noodles in soupを注文したら、野菜に交じって揚げ豆腐が入っていました。菜食主義者が肉を豆腐で代用することを考えると不自然ではありません。野菜ラーメンを期待した私には違和感がありましたが、まずくはなく、この店も盛況でした。

 食べ物が国境を越えると、行った先で変化を起こすことがよくあります。これは「現地化」という現象で、上はその例です。異国の食べ物をそのまま持ち込み根付かせることは簡単ではありません。それは、同じ材料が手に入らない、同じ材料でも風味が異なる、食べる人の好みが異なる、などの事情があるからです。現地化しなければ拒絶されることもあります。例えばパンは日本に普及しましたが、もちもちの食感が好まれるためか、欧米で一般的な固めのパンはあまり店頭に並びません。

 異国の食べ物が現地化するということは、その国で特定の地位を獲得するということです。その際に、元の国での地位より高くなることが多いようです。例えば、イタリアの庶民食ピザは移民によりアメリカに持ち込まれ、そのまま庶民食として根付きました。現在は宅配食の代表的存在です。ところが宅配ピザチェーンがイギリスに近年進出した際、なぜかおしゃれなレストランになりました。またイギリスのFish & Chipsは、白身魚に衣を付けて揚げてポテトフライを添えたもので、伝統的な庶民食ですが、これを日本で注文すると少し上品な仕上がりで出てきます。同様の現象は日本の回転寿司にも起こっています。元々高級だった生寿司を庶民食にしたはずの回転寿司が、欧米に進出してSushi Barに変身しています。先日テレビでは、枝豆の軍艦巻きを目撃しました。枝豆も日本では庶民食ですが、欧米では健康志向派の高級食材になっているようです。

 食べ物の現地化は悪いことではないと私は考えます。例えばカレーやラーメンのように、外国由来でありながら日本で独自の進化を遂げた食べ物は、日本の食文化を豊かにしたと言えるでしょう。今は海外で和食が評価を高めていますが、輸出して各地での現地化を許す方が面白い展開になると思います。例えば抹茶をコーヒーと同列の飲み物にアレンジするなど、日本人は思いつかなかったでしょう。しかし現地化したものは「本物」とはどこか異なります。それが冒頭で述べた私の違和感です。食文化を発信する側は、「現地に合わせて変えて結構。でも本物を味わいたかったら本国まで来てください」と言えるだけのプライドと寛容を持つべきではないでしょうか。

【新任教員の紹介④】井上正子先生(英語)

言語文化学科では今年、4人の新しい先生を迎えました。今回は、英語の井上先生をご紹介致します。

<Q1> 「お名前」をお教え下さい。
井上 正子(いのうえ まさこ)です。

<Q2> 「ご専門(あるいは担当科目)」をお教え下さい。
1920年代のニューヨーク・ハーレム地区ではじまった文化運動ハーレム・ルネサンスと英語圏カリブ文学を中心に研究しています。学院大では英語圏文学と文化で考えるジェンダー・スタディーズも担当しています。

<Q3> 最近嬉しかったことは何ですか。
学院大に就職できたことです。

↑奇跡のような青空が広がる真冬のヒースの丘(2013年12月)

<Q4> 研究者(あるいは教員)を志したのはいつですか。
わたしは社会人経験を経て研究の世界にはいりましたが、きっかけのひとつにニューヨークでの異文化体験があります。留学先の大学に隣接する公園で、浅黒い肌の女たちが白い赤ちゃんの子守りをしているのを見て、ショックを受けたことをいまでもよく覚えています。もともとジェンダーや人種問題に関心があったのですが、有色の女たちが白人中産階級の共働き世帯を支えるために低賃金労働を余儀なくされている現実を知り、動揺したのでしょうね。米国では、中産階級の白人が移民や有色女性の子守りを雇うことがよくあるのですが、結果として肌の色や言語文化の違いにもとづく経済格差、女性格差が助長されているのではないか。ナイーヴすぎるかもしれませんが、そう思ったんです。この頃、いろいろな文化的背景を持つバイタリティ溢れる人たちに出会って、日系や中国系、韓国系アメリカ人、ターバンを巻いたインド系、ヒスパニック系、カリブ系住民からたくさん刺激を受けました。大学の授業では、ハイチ系アメリカ人作家エドウィージ・ダンティカのBreath, Eyes, Memory(邦題『息吹、まなざし、記憶』)を読んでいて、西洋とアフリカの言語文化が混じり合うカリブ海の「クレオール」という文化現象に惹かれていきます。先生にそのことを伝えると、「ファンレターを書くといい。アメリカの作家は返事をくれるから」とおっしゃる。半信半疑で出版社に手紙を送ると、ほんとうに作家本人から直筆の返事が届いたからびっくりです。うれしくって何度もなんども手紙と小説を読み返して、いつかダンティカやまだあまり知られていないカリブ系作家の作品を翻訳して日本の読者に紹介したい、と思うようになりました。とは言っても何者でもないわたしが出版社に翻訳原稿を持ち込んだところできっと相手にしてもらえませんよね。それならいっそのこと、専門家になったらどうだろう・・・(!!)。かなり無謀な思い付きでしたが、雑多な人種や文化が出会うニューヨークの下町で受けた刺激が、いまのわたしの下地を作ったことは間違いなさそうです。

<Q5> 学院大(生)のよいところをお教え下さい。
案外(?)まじめなところ。

<Q6> 赴任以来、「なんでやねん」と思わずツッコんでしまった出来事はありますか。
着任式当日に骨折し、全治一ヶ月と診断されたことです。ところが骨折したのが足の親指だったので、踵に重心をかけて歩くだけでもじんじん痛むほどなのに、誰も気づかないし心配もしてくれない(笑)。それにしても、生まれてはじめての骨折を晴れの舞台の日にしなくても・・・と自分で自分にツッコみをいれたくなる出来事でした。

<Q7> (遅くなりましたが)五月病に悩む学生へ一言、「こうしてごらん」。
新しい環境になかなか馴染めず、孤独や行き詰まりを感じることがあるかもしれません。そんな時、日常から少しだけ離れてみるのはどうでしょう。川べりの散歩でも、サイクリングでも、地下鉄で街にお出かけでも、国内外のひとり旅でも、なんでもいい。出かけた先で、人でも物でも景色でも、偶然の出会いを楽しんでみてください。わたしの場合、海外にいても行き詰まりを感じると、ふらっと鉄道の旅に出たくなってしまいます。写真はエミリー・ブロンテの小説『嵐が丘』の舞台となった英国ヨークシャー・ハワースにあるトップウィズンズという廃墟を訪ねた時のもの。出発地点のブロンテ博物館から往復6時間ほどかかるので、夕暮れまでに宿に戻れるかどうかうろうろしながら考えていると、偶然通りかかった地元トレッキングチームのリーダーが「一緒に来るかい?」とお声をかけてくださる。彼らのおかげで無事に目的地まで辿りつけただけでなく、パブでのクリスマス・ディナーまでご馳走になり、感謝の気持ちでいっぱいです。仕事に追われて気持ちに余裕がない時期でしたが、旅先で見知らぬ人たちの思いやりに触れて、自分を見つめ直すこともできました。なので、ふらっと小旅行はおススメです。ただし、くれぐれもセキュリティ対策は万全に。

夏のオープンキャンパスが無事に終わりました。

2017年7月22日(土)に全学のオープンキャンパスが盛況のうちに無事終了いたしました。天候にも恵まれ、県内外から306人の高校生が言語文化学科のブースを訪れました。言語文化学科では、言語文化学科らしいグローカル(GLOBAL+LOCAL)な活動が展開され、高校生や保護者に対して言語文化学科で学ぶ面白さを伝えることができました。特に、3年生だけでなく、1~2年生もたくさん訪れ、オープンキャンパスに対する関心の高さを感じました。↑教員から事前に注意事項を聞くボランティア学生たち

教養学部の言語文化学科は、①文化のしくみ(文化論)、②ことばと教育(日本語教師、英語教師)、③国際交流、④世界各地域の言語文化(英米の言語文化論、ドイツの言語文化論、フランスの言語文化論、中国の言語文化論、韓国・朝鮮の言語文化論、日本の言語文化論)、⑤表現と文化(メディア文化・西洋美術史)、⑥言葉とコミュニケーション(哲学・倫理学)、⑦言葉のしくみ(第二言語習得論、言語論)の7つのグループ、計14ヶ所のブースが設けられました。

今年度の会場は例年より広いため、たくさんの方々をお迎えできるようになりました。県内外から多くの高校生と保護者が訪問され、興味のある各ブースに質問をしたり、近くにいた在学生ボランティアさんから大学生活を聞いたりしながら、言語文化学科での勉強のイメージを膨らませていました。

今回は「学科ガイダンス」「模擬授業」「個別相談」など、言語文化学科に興味や関心を持ってもらえるような様々な取り組みが行われました。この場をお借りし、ご来場の皆様を始め、37人の学生ボランティア、先生の方々のご協力に感謝申し上げます。

↑入試・交換留学の個別相談の様子   ↑日本語教育模擬授業(佐藤先生)

模擬授業」コーナーでは、ワトソン先生「あたらしき山頭火」、下館先生「女優になる方法」、佐藤先生「日本語教育学入門:日本人の知らない日本語!?」によりとても充実した授業が行われました。

↑学科ガイダンス(津上先生)       ↑学科ガイダンス(門間先生)

*     *     *

以下は、在学生・留学生ボランティアの感想文です。

↑オープンキャンパス後の打ち上げ(先生方におごってもらいました)

  • オープンキャンパスのための準備や運営を通して多くの先生や学生と関わることができ、とても良い経験になりました。また、今日来てくれた高校生と話をすることで自分の学習意欲も高まったと思います。良い機会を与えてくださりありがとうございました。
  • オープンキャンパスお疲れ様でした。6月のオープンキャンパスに引き続きスタッフとして参加しましたが、前回よりもしっかりとまじめに活動することができ、より充実したオープンキャンパスとなったと思います。手伝いをしてくれた留学生にも感謝したいと思います。
  • 前回のOCに引き続き参加させていただきましたが、前回よりも倍の高校生が来てくださり、とても充実したOCになったのではなかったかなと思います。留学に興味のある子もとても多くて、なるべく詳しく教えてあげようと頑張りました。蒸し暑い中でしたが、皆が協力しあって素晴らしいOCにできたのではないかと思います。
  • この前のオープンキャンパスの時も本当に楽しかったです。今回は最も広くて安定的なオープンキャンパスをすることができました。いろんな人々のおかげで私の知らない部分も手伝ってもらって無事に終えることができて嬉しいです!来年もやりたいですけど、もう帰っちゃうのでさみしいです。
  • 改めて言語文化に入って良かったと実感することができました。テスト直前の時期で忙しい中での準備だったので100%は出し切れなかったのかなと思います。高校生にとっても夏休みにできるといいのかなと思いました。参加して良かったです!
  • 自分のブースを担当することで自分が学んでいることを再発見(再確認)し、自分のモチベーションを高めて、これからの学びにつなげていきたいなと思いました。
  • 今日初めてOCのボランティアをしたのですが、見学に来てくれる生徒さんはみんな目を輝かせて話を聞いてくれたので、説明し甲斐がありました。また説明をすることによって改めて言語文化という学科のよさに気づけたと思います。

卒業研究の構想発表会が花盛り

前期定期試験が迫ってきました。
単位はあらかた修得済みの4年生とはいえ、無論、試練は与えられています。そう、卒業論文の構想発表会です。小には大学生活4年の、大には学校生活16年の集大成であれば、その出来如何によっては夏休みの過ごし方にも影を落とさずにおきません。
大学生活も残り半年、どうか充実した日々を送っていただけますように。

アドバイスはビシビシ、雰囲気はピリピリ

講演会が盛況のうちに終わりました

7月12日(水)は、東北HIVコミュニケーションズ代表の小浜耕治さんを招いて、「他人(?)隣人(?)当事者(?)セクシュアリティの多様性」という題名での講演会、そしてブルームバーグ(Bloomberg)社東京支局長の高橋和典さんを招いて、「記者の目から見た世界の中の日本」という題名での講演会が行われました。

言語文化学科の教員や学生だけでなく、セクシュアリティの問題あるいは外国で英語を使っての仕事に関心を持つ他学科の学生も多数参加しました。

講演会の案内①「他人?隣人?当事者? セクシュアリティの多様性」

 PORTAの取り組みの中の企画として、東北HIVコミュニケーションズ代表の小浜耕治さんをお迎えして、性の多様性とともに生きるとはどういうことなのかをお話し頂きます。
 日ごろ、性を語ることはどれくらいあるでしょう?自らにとって、性とはどういうものなのか、それを言葉にしようと思ったことはあるでしょうか?それを周囲の人と話し、互いの性について掘り下げたことは?
 私たちの住む社会は、性に対して後ろ向きです。そんな社会で性的マイノリティはどんなことに困り、どんなことに気付いているのか?そのことは、社会の性に対する姿勢にどんなことを投げかけているのでしょうか?

●日にち:7月12日(水)
●時間:10:30-12:30
●場所:3号館6階の多言語多文化実習室(人数によっては教室変更の可能性が出る場合もあります)
●主催:ドキュメンタリーとフィールドワークゼミ(宮本ゼミ、酒井先生ゼミ)

<講師紹介> 小浜耕治|こはま・こうじ
大阪府出身。1982年より仙台に。92年に自分へのカミングアウトを果たし、ゲイサークルの活動をはじめる。93年の東北HIVコミュニケーションズ(THC)の立ち上げに加わり、2003年、代表に就任。04年、男性同性間HIV感染対策のためのグループ「やろっこ」を立ち上げる。震災後には多様なセクシュアリティの当事者による手記収集のプロジェクト「レインボーアーカイブ東北」をせんだいメディアテークと協働して行っている。レインボー・アドボケイツ東北で行政機関等への政策提言を行い、宮城県内自治体の男女共同参画基本計画へ性的マイノリティ施策を盛り込むよう活動した。また、LGBTの枠にとらわれず精神障害や発達障害、生活困窮といったより困難を抱えている人の相談支援も幅広く行っている。

オープンキャンパスが無事終了

2017年6月24日(土)にはオープンキャンパスが無事に行われました。言語文化学科では、言語文化学科らしいグローカル(GLOBAL+LOCAL)な活動が展開され、高校生や保護者に対して言語文化学科で学ぶ面白さを伝えることが出来ました。

言語文化学科のオープンキャンパスでは、「ことばとコミュニケーション」「表現と文化」「文化のしくみ」「ことばの習得と教育」「ことばのしくみ」「世界各国の言語文化」6つの専門分野、計13ヶ所のブースが設置されました。教室は2つに分かれることになり、もっとゆったりとした環境の中で、丁寧な紹介が行われることが出来ました。

 

 ↑岸先生による学科ガイダンス  ↑津上学科長による学科ガイダンス

↑学科相談コーナー(大盛況でした)

今年は特に外国語と海外留学に興味があり、独学ですでにかなりの実力を持っている生徒が多かったと思います。そして、言語文化学科を第一志望として考え、興味のある各ブースに質問をしたり、近くにいた在学生ボランティアさんからの説明に真剣に耳を傾け、メモを取っている生徒も多かったです。外国の言語と文化について学びたいという熱意を持った生徒が多いということを改めて実感し、とても嬉しく思いました。

↑留学経験者と留学生が国際交流、交換留学について説明しています

高校生の皆さん、今日のオープンキャンパスでは、言語文化学科の魅力を伝えるには短過ぎる時間だったと思います。7月22日(土)には泉キャンパスでより多彩なプログラムが予定されているので、ぜひもう一度お越しください。

また、勉強やアルバイトなどでお忙しいところを多くの在学生ボランティアさんがご協力していただきました。そのおかげで、成功のうちに終わり、改めて感謝致します。以下はボランティアに参加した学生たちの感想文です。

*        *       *

高校生と話して、自分が今勉強していることを言葉にすることができた事で、改めて自分がやってきた事が分かった気がします。自分がふれた事以外のブースを見れて楽しかったです。どこを見ていいか悩んでいるような子に、積極的に話しかけるように努めました。

高校生がたくさん来てくれて良かった。当日は流れも良く、楽しくできた。事前準備をもっとしっかりできれば、不安なく挑めたのではないかと思う。自分が学んでいる内容を説明することで、自分の考えを整理できてよかった。皆で協力する体制ができていたし、自主的に行動している人が多かったと感じた。

たくさんの高校生のみんなが来てくれてとても嬉しかったです。一人一人の高校生の子たちと割とじっくりお話をして、学んでいることの魅力や、大学生活について詳しく話ができたので、来てくれたみんなにとっても良かったのではないかなと思います。お昼もおいしかったです。ありがとうございました。

想像していたよりも高校生がたくさん来てくれたので、紹介するこちら側も楽しむことが出来ました。留学をしたいという子がとても多く、留学の話をするととても興味を持ってくれました。留学生のみんなも一緒に手伝ってくれて、高校生も留学生とふれ合うことができて、楽しめていたようです。7月のOCもさらにいいものにできるように、準備を頑張りたいです。